赤ちょうちん

2026年06月17日

 「昼まで寝るぞ」。昨夜そう思って床に就いたのに、9時30分に目覚めてしまった。作家でもあり、医師でもある渡辺淳一氏の、昔読んだ小説に、眠るのにも体力が要る。そんな一説があったのを思い出した。そして納得もした。

 

 部屋に、掃除機をかけた後、予定通り奥出雲町に向かって車を走らせた。正確に言えば、仁多郡奥出雲町三沢である。私は昭和25年3月3日、この地に誕生して、中学を卒業するまでここで育った。ここで暮らしたのはたった15年だが、ここへ来ればなぜか心安らぐ。

 

仁多へ 兄嫁が一人で暮らす家に行くことなどできやしない。先祖が眠る、共同墓地に直行することにした。線香を手向けた。父さん、母さん、あんちゃん、久し振りだねと石塔の前で額ずいた。年に何回かは訪れてはいるが、本当に久し振りな気がした。父の、母の、兄の顔が浮かんできた。

 

 懐かしんでいるうちに、ふと何かが私の心に飛び込んだ気がした。そしてこう思った。そうだね、俺甘えていたんだね。自分の人生に、境遇に。だから苦しかったんだね。そうだよね、しっかり生きて行かなくちゃあね。しっかり生きて行きゃあ、楽になれるよね。楽しくもなれるよね。俺、馬鹿だったよ。有難うね。今日、ここに来てよかった。

 

 三成駅にも行ってみた。阿井を通って、広島県の高野町に出て、松江道を帰路に着いた。吉田掛合ICで国道54号線に降りた。CDが「かぐや姫」の「赤ちょうちん」に替わった。何度も、何度も繰り返しこの歌を聴いた。「あんたこの歌好きなんやなあ」。助手席で笑う妻の関西弁が聞こえてきた。

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