店主日記

  • 続大晦日 2023年12月31日

     あれから奥出雲町に向かった。目的地は道の駅「酒蔵奥出雲交流館」だ。何のためかと言うと、前編で書いた「どぶろく」を買うためである。これを買って、大晦日の晩をひとり楽しもうということなのである。

     

    どぶろく

     写真のように、「D-269」と、D51と言う機関車のようなラベルになっている。以前から、あれは何のアルファベットと数字なのだろうと不思議だった。一度確認したいと思っていた。だがいつもそれを忘れていたので今日は店員さんに聞いてみた。そしてなるほどと納得した。皆さんも推理してみていただきたい。ヒントは、店員さんの言った一言で私が即座に理解したこと。

     

     4時、松江に帰ってきた。いつものスーパーマーケットは依然、車が混雑していた。他人と駐車スペースを争うほどの度胸は無し、他の初めてのマーケットに行ってみた。何がどこにあるのか分からない。困ったなあ。

     

     何かお探しですかと親切な店員さん。メリケン粉はどこですかと聞いてみた。え、っと、一瞬ひるんだ店員さん、だがすかさず、小麦粉はこちらです、と言った。あ、そうか、古語なんだ。昔はそう言っていたんですと、若い男性店員さんとふたりで笑ってしまった。ちなみに、メリケンとはアメリカのこと。アメリカから伝わった小麦粉だからメリケン粉と言っていた。フランク永井が「雨のメリケン波止場」歌ってたな。外国船が着く波止場のことだ

     

     大晦日という特別な日は、より強く孤独を感じてしまう。だから何かで楽しもうと思った。飲みながら、お好み焼き焼くのもいいな。そう思って小麦粉が欲しいと思った。それにしても、教育が行き届いた店だなと感じた。それとも、店員さん一人一人の心なのだろうか。そんな企業の雰囲気なのだろうか。大晦日のこの思い、心に明かりがさした気がした。その店の名は、ひまり大庭店。

  • 大晦日 2023年12月31日

    尾道の鐘 昨日は天気が良かった。朝から部屋の掃除をしながら布団を天日に干した。シーツも洗った。お陰で昨夜の布団は暖かだった。心地良かった。お陰でよく眠れた。途中、目覚めるのでもなく9時過ぎまで眠った。そして今朝、雷の音で目覚めた。

     

     とりあえず墓参しようと思った。公園墓地に向かい始めたら大雨。それでも何とか花の水を替えて、蝋燭灯して、線香に火を点けた。帰りにいつものスーパーマーケットに寄ろうとした。が、駐車場がいっぱい。家族連れが目に付いた。ああ、いやだな。幸せそうは人たちを見るの、いやだな。駐車場を一周して帰ってきた。

     

     朝とお昼を一緒にしたご飯を食べ。午後どうしようかと思った。奥出雲町に行こうかなと考えた。道の駅で「どぶろく」というお酒買おうかと思った。明日は正月。ひとりぼっちの正月。妻がいて、子供たちがいて、楽しかった過去の正月が思い出された。するとなぜか、暖かだった先日の尾道行きが思い出された。あの日は楽しかった。

  • 思い出の三瓶山 2023年12月27日

     目が覚めたら9時半だった。急ぎ朝食を食べて出雲市に向かった。病院の昼ご飯の邪魔はしたくないから早く行きたい。山陰道を走った。いつもの半分の時間、30分で到着した。息子との面会は楽しみだ。近くの身内はお前だけだから。

     

     西に向かうと、どうしても三瓶山に向かってしまう。いつものように、大田高校の前を通って北の原に向かった。大田高校の前を通る時、三瓶山が正面に見える。所々に雪があるのが見えた。そして、進むのにつれて道路の両側に除雪した雪の塊が見えてきた。そうなんだ。山なんだ。

     

    三瓶山

     

     だけど、暖かだった。エアコンを消して窓を少し開けて走った。道路の両側に除雪された雪の山が解けて、その水が路面に流れていた。それが太陽の熱に照らされて水蒸気になって立ち登っていた。不思議だなあと思った。不思議な風景だなと思った。

     

     久し振りにおでんが食べたい。煮込む時間が必要だから3時には帰って買い物をしたい。三瓶山は写真を撮るだけで通過、いつものように頓原に下りて来た。これからは松江に向かって走るだけ。その1時間余り、運転に酔った。飲酒した時のように何もかも忘れてしまう。不思議な瞬間だ。だから、ドライブが好きなのだろう。

  • クリボッチ 正月ボッチ 2023年12月26日

     クリスマスをひとりで暮らす人たちをクリボッチというらしい。先日その人たちが渋谷駅の周辺をクリスマス粉砕デモをした。「クリボッチも多様性のひとつだ」「これが日本の言論の自由だ」と言ってメガホンで叫んだとか。何か、微笑ましいな、とそう思った。

     

     昨日のクリスマスの夜、炬燵に入って新聞を読みながらテレビをBGM代わりに聞いて焼酎のお湯割りを飲んだ。最近はそれでも大分ひとりぼっちに慣れてきたが、だがやはりどこかに隙間風が吹いているようで一抹の淋しさを感じてしまう。

     

     もうすぐ正月だ。楽しみなことが一つある。それは妻の誕生日。元旦の日は妻の誕生日なのである。幸いに年末年始は暖かいらしい。その日は朝から車で走ろうと思う。どこかへ行きたいではなく、走りながら妻との二人の思い出話に花を咲かそうと思っている。関西弁交じりの話好きな妻と。きっと、楽しいだろうと思う。鳥取駅の改札口で、君のこと探すの好きだったよって、40年前の思い出からいっぱいいっぱいあるもんな、楽しい思い出が。

  • 妻のクリスマスプレゼント 2023年12月24日

    文学のこみち 今朝は、昨日と比べたら暖かいと思った。温度差にしたら、2度か3度。そのぐらいの差だとは思うけれど、ずいぶん体が楽な気がした。だから、事務所前もいつもより入念に掃き掃除した。細かくなった木の葉の破片もみんな奇麗に掃き取った。気持ち良かった。

     

     どうして今日はこんなに気持ちいいんだろう。そう思った瞬間、妻の声が聞こえた気がした。妻がそこに微笑んでいる気がした。そうなんだね、なぎさ。君はいつも俺を見守ってくれているんだね。いつも隣に寄り添ってくれているんだね。俺たちふたりでひとりなんだね。文学のこみちを寄り添って歩いた時のように。そうなんだね、有難う。

  • 寒いなあ 2023年12月22日

     今朝は雪で路面が凍っていた。今日の予想最高気温は3℃。今10時、事務所玄関のガラス越しに差し込んでくる太陽の光の暖かさに背中を温めた。それもつかの間、太陽はどこか向こうに去って行った。いつだったか、ある人に頂いたネックウオーマーが手離せない。

     

     昼前になってまた晴れた。このチャンスにと墓参に向かった。公園墓地の蛇口は凍って回せなかった。水をあげることはできなかったが、線香は灯してきた。どうしても、いちにち一回は行かなくちゃあ。そうしないと、何か忘れ物をしたみたいになってしまうと思う。いや、すまないなと思ってしまうと思う。きっとそう。

     

     今日は鍋料理を作って3日目だ。道の駅「あらえっさ」で買ってきたあの大きなハクサイもどうやら片付きそうだ。具も少なくなってきたから今晩はうどんを入れてやろうと思っている。そして明晩はご飯を入れて雑炊だ。寒い日には、ニンニクの効いた醬油味のこの鍋料理が一番だ。

  • 初積雪 2023年12月21日

    初積雪 昨日、奥出雲町に行く前にホームセンターでスコップを買った。それを3列目シートを収納してある車の荷物室に積んだ。これで、たとえ雪が積もっていても立ち往生することはないだろうと安心して出かけた。奥出雲町に着いてみると、ある家の玄関前に雪かき用道具が数点並べて置いてあった。雪国なんだと改めて思った。

     

     そして今日、朝食が終わってリビングのカーテンを開けた。景色がうっすらと雪化粧。おっとこれは大変だ。遅刻するかもしれない。そう、雪が降って積もる街なのに松江の道路は恐ろしくは雪に弱い。ちょっとの雪ですぐに道路が混雑する。確かに、雪を甘く見ちゃダメ。だけど、恐れすぎるのもダメ。雪をよく知らなくちゃあ。奥出雲育ちの私だから言えるのかも。

     

     朝ここまで書いて、今昼過ぎて2時。気温が上がらない。時々外で雪が舞っている。今日の最高気温は5℃。明日はもう1℃、低いらしい。この寒さ。普通なら骨身にこたえるというのだろうが、身の少ない私には骨に染みる。先日行った、暖かだった尾道が恋しい。写真のあたりに、造船所はあると思う。

     

    造船所

  • 山のけむり 2023年12月20日

     朝起きて、今年最後の先祖の墓参しようと思い立った。よく寝たので出発の時間は11時半。三刀屋町から国道314号線に乗り替えた。車は順調に走っていた。しばらくすると、山が煙っていた。何かが燃えているような程に、煙っていた。不思議だなあと思った。

     

    山のけむり

     

     駐車スペースに車を停めた。カメラを持ってそれを眺めていた。そしたら昔の歌を思い出した。「山のけむり」という歌があった。あの歌の煙は、山の中に立つ家の煙突から立ち上る、その煙だろうと思う。だが何故か、その歌が心の耳に聴こえて来た。誰の声だろう。女性がきれいな声で歌っている。あ、そうだ。倍賞千恵子だ。

  • 中華丼 2023年12月19日

     景色はいい処だった。寝転んでいていろいろなものが見えた。前の島に造船所がある。・・・・同じ島の左手の山の中腹に石切り場があって、松林の中で石切り人足が絶えず唄を歌いながら石を切り出している。その声は市の遥か高い処を通って直接彼のいる処に聴こえて来た。

     

    向島

     

     上記文章は志賀直哉の「暗夜行路」、尾道の時任謙作の寓居から見えた向島の風景の一節だ。今はその石切り場はない。あの当時の石切り場は、写真の右手にに小さくクレーンが写っている、その上の山の中腹に岩肌がかすかに見える、あのあたりだったらしい。地元の初老の男性に確認した。中央に見えるのが「しまなみ海道」だ。これも、展望台から見える尾道の風景だ。私は、どうしてこうも尾道の風景に惚れこんでしまったんだろう。

     

    中華丼 先週の定休日に、鍋料理しようと安来市の道の駅「あらえっさ」で、大きて旨そうなハクサイを買ってきた。それがまだ半分残っている。先週一週間鍋料理だった。また鍋するのもな。だからどう使い切ってしまおうかと思っていた昨日、事務所近くのコンビニでカタクリ粉が売ってあるのを見つけた。そうだ、これを利用してハクサイを少し使ってみよう、そう思った。

     

     ウインナーでいいや。ハクサイがある。キノコがある。ニンジンがある。ピーマンがあった。モヤシもあったんだ。中華丼なんて作り方も知らない。スマホでレシピ見るのもめんどくさい。自己流で作ればいい。そう思って作ったのが写真だ。底の浅い大きな器に盛ってみた。醤油味と、ごま油の香りが絶妙。我ながら天才だなと思った。旨かった。

  • 雪が降っていた 2023年12月17日

    千光寺山ロープウエイ 寒い夜だった。朝起きてカーテンも開けずに朝食を済ませた。出勤の準備ができたのでリビングのカーテンを開けた。すでに外は明るくなっていた。寒い訳だと思った。空間に対する密度は薄いけれど、ふわりふわりと雪が風に舞っていた。落ちるでもなく、舞い上がるでもなく、いつまでもいつまでもふわりふわりと風に舞っていた。

     

     昼前になったらぼたん雪に変わっていった。アスファルトに落ちるその雪は直径2センチもあるだろうか。それが止むと今度は粉雪が降ってきた。風があるので上空の温度も変化が早いのかもしれない。粉雪は、気温が低い証だとか。こんな天気の日には、先日行ったあの暖かだった尾道が恋しくなってくる。

     

     写真は尾道の千光寺山ロープウエイ。その長さは365m。15分毎に出発して到着時間は3分。上りの到着地は千光寺山の頂上付近。展望台までエレベーターで昇れる。千光寺公園は、平成21年に「恋人の聖地」に認定されたらしい。恋人との展望は素敵だと思う。

  • 金曜日 2023年12月15日

     良く寝た。目覚まし時計を7時にセットしたのに目が覚めたのが7時半。目覚まし時計はセットが解除してあった。無意識のうちに解除してしまったのだろう。なぜかこの頃よく眠る。むさぼるように眠ってしまう。不思議なぐらいよく眠る。

    鼓岩

     

     今日は、日本自閉症協会の、島根県支部の、その松江分会とでも言おうか、「あじさいの会」の集まりがあった。久し振りに行ってみようと思った。今年最後の会合に行ってみようと思った。会場に到着したら、すでに二人の姿があった。集まったのは、私を含め、6人ほど。

     

     大方のあじさいの会の本題が終わると、後は雑談となった。皆、歳をとった。私の他は、女性ばかり。だが、歳をとると女性とも話が合う。近況、思い出の話。この会のメンバーとは、もう30年ほどの付き合いになる。その中のある人が言った。再婚しないのって。しないよ、と言ってスマホに保存してある私と妻とふたりで写った結婚式の写真を見せた。美男美女でしょ、と言って。「よっぽど奥さんと仲良かったんだね」そうだよ。大恋愛だったんだよ。

  • 展望台 2023年12月11日

     本通り商店街を歩いてみた。小物を売っている店に何店舗かに入ってみた。買うのでもない。なんとなく品物を見て、そしてぶらっと出て行く。店の人にとってはつまらないお客かもしれない。だが、さくらにはなるかもしれないと罪意識を和らげてみた。

     

     そろそろ帰ろ。ロープウエイの片道切符を2枚買った。定員30人と書いてある乗り物には20人近くが乗っていた。30人は無理だろうと思った。発車時間直前だったからロープウエイはすぐに動き出した。なぎさ、この前と同じ風景だね。何も変わっちゃいないね。尾道にはたくさんの寺があって、その、それぞれの屋根の瓦だけが妙に輝いて見えた。

     

    展望台

     

     3分ほどで千光寺山の頂付近に到着した。妻が展望台に行ってみようよと言った。満員のエレベーターに乗り込んで展望台に立った。この展望台、以前来た時にはなかったのにね、と妻が言う。そうだね、初めてだね、それにしても眺めがいいね。向島の向こうの海や、そこに浮かぶ島々がよく見えた。すばらしいわ。来て良かったね、と妻。黄砂だろうか、風景は霞んでいたが絶景には間違いなかった。なぎさ、楽しかったね。また一緒に来ようね。俺は、君といるのが一番楽しいんだから。

     

    瀬戸内

    解説

     この3日間の店主日記、読まれた人は奇異に感じられたのかもしれない。ひょっとしたら作者は・・・と思われた人もいるかもしれない。妻が亡くなって、もう5年と7カ月余りが過ぎた。もう、悲しみとさよならしてもいい頃だろうに。だが、妻への思いは一層深まっていく。

     

     朝起きたら、枕元の妻の写真にお早うと言って頬ずりする。出勤前に、じゃあ行ってくるねと手を振って玄関を後にする。帰るとすぐ、玄関から帰ったよって声をかける。何をするにも妻と話すことにしている。忘れてしまえばいいものを、あえてこうすることで心が和む。これが私のこの頃の日常だ。仕事でも、家にいる時も、ドライブを楽しむ時でもいつもそう。だから、これが日常の店主日記なのである。

  • 尾道ラーメン 2023年12月10日

    ラーメン店 とうとう、時任謙作が過ごした三軒の小さな棟割長屋は見つけることができなかった。小路の石垣の傍らに貼られた、観光案内用地図にも、志賀直哉の字は見つけられなかった。がっかりして少し下った。坂道と尾道の商店街を隔てる国道に突き当たった。時刻は昼を過ぎてもう1時になっていた。

     

     尾道ラーメンを食べようと、そう言ってやって来た尾道の商店街を歩いた。この前、妻とふたりで食べたラーメン店はお好み焼き屋の看板に替わっていた。するとどうだ、良い店を知っているかのように妻は私をリードして歩きだした。見つけたわ、行きつけの店を。そう言って妻は先に入って行った。その店は海岸にほど近い場所にあった。名は「牛ちゃん」。赤い暖簾に、尾道ラーメンと焼き肉の文字が刻んであった。

     

     どうして尾道に妻の行きつけがあるのだろう。不思議な気がした。だが、そんなこともあるかもしれないと思った。天国から、娘が住む尾道に時々遊びに来ていたのかもしれない。そう思った。店内の作りを見て、私もここには来たことがあったなと、思い出した。娘に連れられて一度だけ来たことがある。そうか、娘は、この店に何度か妻を連れて来ていたんだ。

     

     妻との食事は、飲食店では自発的にメニューを選んだことがない。妻がこれにすると言うと、じゃあ俺も。いつもそうだった。ここでも、妻がこれにしようと言った。尾道ラーメンの麺大盛りだ。濃い醤油色のスープに大きなチャーシューが麺を隠していた。その周りに背油が浮いていた。そこへネギが添えてあった。

     

    尾道ラーメン

     

     懐かしかった。妻とふたりで食べる尾道ラーメンはより美味しく思えた。松江のラーメンより味は濃いかもしれない。海に働く男たちに合わせた濃い味なのだろう。スープを吸ってみたら潮騒が聞こえるような気がした。この店で働く若い人たちの顔立ちは皆凛々しかった。のんびりしていたら、海の仕事なんかできやしない。そのDNAなのかもしれないと、そんなことを思いながら食べた。

  • 尾道に 2023年12月09日

     待ちに待った12月8日がやって来た。今日のために、明日のアパートの鍵渡しの準備も昨日終えておいた。打ち合わせがありそうな業者には8日は外すよう連絡をしておいた。緊急のための電話の転送も忘れてはいない。今日でなくてはならない理由は、私個人のある思いだから触れぬ。いつものように千光寺公園駐車場に車を停めた。なぎさ、着いたよ。一緒に歩こうな、この前のように。

     

    千光寺

     

     陣幕久五郎の手形の前の岩の上から尾道の町並みを眺めた。なぎさ、気を付けろ、危ないから。この岩には、大阪城築城に使おうとした石切りの痕跡が残されていた。しばらくして、千光寺に行った。入り口にあるドングリの木の実がポトリと音を立てて落ちた。恋人時代のあのふざけ合いを思い出した。それを拾って前を歩く妻の頭にぶつけてみた。痛いと言って振り向いたその顔は笑っていた。なぎさ、君もあれをしてみるかい。大きな数珠を若い女性が回していた。何とかと唱えながら回すと願いが叶うらしい。

     

     千光寺を後にして、あの坂道を下った。確かこの辺りだったと思うが、見当たらない。志賀直哉の唯一の長編小説、暗夜行路。時任謙作が住まっていた棟割長屋が。せっかく、文庫本のコピーを持って来たのに。そこから、謙作が大正時代に見た尾道の風景。その描写を、妻に読み聞かせてあげようと思っていたのに。

     

     後で、千光寺山ロープウエイの切符売り場にある観光案内所で聞いてみた。今、その長屋は一般公開していないらしい。千光寺公園ガイドマップにもその記載はない。だが、私は妻と一緒にあの雰囲気を味わってみたかった。4年前だったか、長女と一緒に行ったあの雰囲気を。・・・ ・・・後日に続く。

  • 松葉に思う 2023年12月07日

     つい先日、事務所周辺の松葉掃きをしたばかりなのに、また昨日の嵐で再び散乱した。毎年、今時分の嵐は私を悩ませる。なぜなら、松葉掃き作業は結構時間と体力を要するからだ。そして風、事務所前でつむじをこしらえる。そのつむじは、事務所前に枯れ葉を落としていく。朝、いくら奇麗にしても、1時間もすれば元の木阿弥だ。

     

     この嵐とつむじ風は、私の人生の縮図なのかもしれない。だけどよく試練に耐えてきた。よくここまで生きてきた。そう思う。よく頑張っているなと、自ら思う。体重50キログラムのこの体でよく頑張っているなと思う。明日は、信じもしないけれどその神が、尾道行きの褒美をくれた。そして、耐えてこれたのも、神が与えてくれた褒美なのかもしれない。

  • 永遠の思い 2023年12月05日

     ルーペを取り出すために事務所の小物入れを開けた。プラス株式会社のホッチキス針の小箱に目がとまった。これは、妻が嫁入り道具のひとつとして持って来たものだ。あまりにも、その量の多さにびっくりしたことを覚えている。家庭で何に使うのだろうか、と。

    ホッチキス針

     

     やがて、不動産業を始めた。妻が持って来たたくさんのホッチキス針が役に立つようになった。あんなにたくさんあったのに、この春、2本を残してほぼ使い切った。18年間、役に立ったことになる。妻はこのことを読んでいたのだろうか。いつか役立つと思って。

     

     記念として、2本を残しておくことにした。何の品を見ても、妻が触ったものは懐かしい。そんな妻のことが、もう逝ってから5年半過ぎたのに、胸深く思い出されてしまう。日が短くなったからだろうか。寒さが増してきたからだろうか。そんな季節が、妻を深く深く思い出させてくれる。そして、妻は幸せだったのだろうかと、そう思ってしまう。また、今なお、妻に恋していることに気付いた。

  • 2023年12月04日

     朝起きて、リビングのカーテン開けたらまだ薄暗かった。茶臼山の頂あたりを霧が覆っていた。夜が明けるのと一緒に、霧は茶臼山を下ってきた。やがて一面は霧に覆われた。通勤の最初の信号待ちでは視界も悪い。霧は良い天気になる印。久し振りに小春日和かしら。

     

    霧

     

     昨夜、末娘に電話した。正月は帰って来るかいって。いや帰って来ないよ、との返事。そのことを長女にラインした。電話できるだけで上出来だ、と帰ってきた。末娘もひとりぼっちの正月らしい。お互いひとりぼっちだから会えばいいのに、と長女は言う。だけど、東京へ行くのもな。帰って来いというのも旅費がいるだろうに。末娘、私といるのは苦痛らしい。長女曰く。性格が似すぎなんだよ。

  • やきもち 2023年12月03日

     7時に目覚めて二度寝したら8時20分になっていた。慌ててパンを焼いて朝食を済ませて真っすぐ出勤した。のぼり旗立ててすぐに墓参に向かった。日曜日だから気持ちが緩むのだろうか、それとも単に疲れているだけだろうか。それとも加齢によるくたびれなのだろうか。

     

     墓参の時間が遅れてある人に会うことができた。妻の墓石の隣のその隣の墓石に眠っていらっしゃる人の奥様に出会った。この人のご主人も私の妻と同じ時期に、半年早かったかもしれない。他界されたらしい。初めて会ったときにそんな話を聞いた。私より二つ年上。だけど動作も機敏でお顔立ちも上品でいらっしゃる。私よりずっと若く見えるのかもしれない。

     

     こんな仕事をしているからだろうか、私は人と話をすることが好きなのである。妻と一緒に働いている時、お客様とよく話をした。特に、女性とはよく話した。やきもちを焼く妻の表情がよく分かった。特に美人だと、帰られた後に言っていた。あんた女好きやなあ、と不機嫌顔で。

     

     

     今朝も、あの人と2~3の言葉を交わした。妻の墓石の前で親しげに言葉を交わした。寝坊しちゃいましたと言葉を交わした。ひょっとして、墓石の妻がやきもち焼いたのだろうか。あのやきもち焼の妻が。ふと、今朝そんなことを思ってしまった。10歳年下の妻、可愛いやつ。

     

     浅田次郎の小説、「おもかげ」が第6章に入った。これから佳境に入っていく。恐らく、竹脇は死んでいくだろう。その時の奥様の気持ちが痛いほどに分かる。やっぱり、この本買わなきゃよかった。読むんじゃなかった。だけど今不思議、読み切ろうと思った。

  • 師走になって 2023年12月02日

     師走になって二日目がやって来た。今年も後30日で終わる。昔の人はよく言ったものだ。また歳をとらねばならないと。え、正月が誕生日なのと子供の頃にはその意味が分からぬまま、そう思ったものだ。昔は正月になったら歳がひとつ増えていた。

     

     今日は久し振りに朝日が事務所の玄関のガラス戸越しに入ってきていた。接客カウンターの椅子を窓近くに引き、インスタントコーヒーを淹れてきた。そこに座って浅田次郎の「おもかげ」を読んだ。背中の日差しが温かかった。パソコンからは60~70年代に作曲された歌が自動的に次から次とボリューム小さく流れていた。この本といい、音楽といい、なんて懐かしいんだろうと思った。正月元旦は妻の誕生日、どう祝ってやろうかなと、おもかげを読みながら考えてみた。

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