店主日記

  • 幻を見た 2021年03月31日

     昨日の午後、鳥取から松江駅に着いた長女と婿殿を尾道に送っていった。 ふたりにとって、尾道最後の夜である。車の中、当分会えないと思っていっぱい話した。泊まろうかどうしようかと迷っていたのだが、娘がホテルを予約してくれた。ガソリン代だよと言って宿泊費も払ってくれたので甘えることにした。三人での居酒屋の食事はえもいわれぬ美味しさである。元気でな・・・。

     

     今朝は、朝一での鍵渡しがあったのでホテルを5時に出発した。まだ明けやらぬ早朝、霧が立ち込めて尾道松江線は視界が悪い。慎重に車を走らせる。だが、風景は幻想的である。緊張の中に夢を見ているような、過去と現実が混在する心持ちの中、隣の席に幻を見た。・・・かあちゃん、素敵な風景だね。

  • 東京は遠いよな 2021年03月29日

     婿殿の転勤によって、長女が東京に行くことになった。最初この話を聞いた時、いいことだと喜んだ。いろいろな土地でいろいろな生活をする。いろいろな経験をすることは娘の人生にとって味わいができる。だからいいことだと喜んだのだが。

     

     尾道を去ってしまう直前になったら急に寂しくなってきた。尾道だったら、私の車の運転能力からするとちょろいもの。日帰りで十分余裕だったのに。いつでも会えるという安心があったのに、東京ではそうもいくまい。でも、引っ越し先は末娘の近くだそうだから、ま、我慢するか。

  • 2021年03月25日

     

    楠 4所帯入りのこの事務所の裏に相当に昔から植わっているだろうクスの木がある。幹回りは大人ひとりでは到底抱えられないほどの大きさだ。時に、雪の重みで枝が折れて落下することはあっても堂々として凛と佇むその姿は神々しくもある。

     

     だが、生への営みは当然のこと。常緑広葉樹だから落葉で丸裸になることはない。黄緑色の新しく芽吹いた葉と紅葉した古い葉とが混在する時期がある。今まさにその時に突入したところだ。年間で、一番生命活動が活発な時なのであろう。

     

     古い葉たちは落葉して春の爽やかな風と戯れる。戯れながら同じ方向へと仲良く移動していく。事務所裏から事務所横を通って事務所前までやって来ては私の事務所前に留まる。移動中の軍隊アリが獲物を見つけた時のように、と言うか私をあざ笑うように。そしてこれから私と彼ら達との長い長い1ヶ月間の格闘の物語が始まるのである。

     

     

  • 2021年03月22日

     長い間、桜の花を忘れていたような気がする。今朝、あ、桜の花が咲いていると久し振りに感じた。早朝に、車で松江市道から左折して公園墓地に入った。すぐに公園道路の両サイドに植わっている桜の木の花びらを見た。木のそれぞれの個体によって、開花の花びらの多さに違いがあるのはおもしろい。

     

     子供の頃、我が家の庭で花見の宴があった。父が、職場から借りてきた数個の裸電球を桜の木に吊るした。近所の人々達と、裸電球の明かりの下の筵の上で飲めや歌えの宴が始まった。木次町の、川土手の桜並木のトンネルをふたりで歩いた。家族みんなして、三刀屋町の川端の御衣黄桜の下で花見弁当を開いた。どれもこれも懐かしい思い出。今年は、いちばん懐かしい木次町の桜並木のトンネルを歩こうかな。

  • 同じ思いの人がいた 2021年03月18日

     午前中、買い物を済ませた。鍋の残りでカレーを作ってみた。昼ごはんにしたが案外いけた。朝の墓参の後、ボウリングをしようと思っていたのに、急に行きたくなくなった。今、家にいても何か空しい。この空しさって、何だろう。

     

     こんな時には車がいい。エンジンをかけ、とりあえず走りだす。宍道湖北側の国道を走る。出雲市の平田町に来た時に行き先が決まった。出雲大社に行こう。参道を歩こう。幸せそうな人々達がいっぱいだけど、だけど構うもんか。

     

     ここに並んで写真を写した。妻たちのグループ3人と写真に収まった。この日がふたりの出会いの日だ。数日後、手紙が届いた。封筒には、4人の写真と手紙が入っていた。そしてしばらくの後、二人の恋は芽生えた。いや、出会いの日から芽生えていた恋なのかもしれない。 

     

    参道

     

     マスクっていいな。下手な歌を口ずさんでも見えないもの。誰にも聞こえないもの。それでも小さな声で歌う。「幸せそうな人々達と岬をまわる ひとりで僕は」 それからも、何度も一緒に歩いたこの参道。その思い出が嬉しい。それが空しい心を救ってくれる。

     

     帰り、再び妻に会いに行く。近所のお墓に、私と同年配ぐらいの女性が花を生け替えていた。初めて会う人だが、訊ねてみた。「(眠っていらっしゃるのは)ご主人ですか」って。「そう、2年半前に。それなのにまだ寂しくって」・・・心が通った。私の目にも、彼女の目にも、涙がにじむ。

  • 明日はどうして過ごそうか 2021年03月16日

     あんなに忙しかった昨日なのに、今日は打って変わって静かな一日だった。あと1時間で閉店の時間が来る。背中からは、末娘が使っていたミニステレオからフォークソングが流れている。お客様との会話に影響がないほどの音量で。BGM代わりである。

     

     さっきまで、山本潤子のCDをエンドレスにかけていたのだがフォークソングに替えた。彼女も私と同い年。もう年なんだから疲れるわなあって思って。だから、妻と二人で車の中で聞いていたフォークソングに替えた。

     

     さて、明日は定休日。どうして過ごそうかと考える。先週、長距離ドライブして疲れたから明日はおとなしくしていようか。それとも久し振りにボウリングに行こうか。右手の中指がひび割れていてボール持てないから左手で投げようか。さあてどうしよう。

  • ひとり占め・・なんだ 2021年03月15日

     大相撲が始まった。5時に仕事を終え、5分で帰宅。3分でシャワーを済ます。相撲を所々、取り組み場面を見ながら野菜をきざむ。すりニンニクを作る。ショウガを糸のように細い千切りにする。これが隠し味になる。鶏肉のつみれは出来合いのを買ってきた。これで準備OK。

     

    鍋

     

     缶ビールを飲みながら煮立つのを待つ。至福のひと時だ。やがてふつふつと鍋の表面が小刻みに揺れる。あくが出る時だ。まさにアップしたこの写真の瞬間だ。あくも、うまみ成分のひとつらしいからほどほどに掬い取る。肉も、魚も、野菜もふんだんだから栄養たっぷり。この鍋、直径30センチ。醤油味のこれをひとり占めするこの幸せ。でもな・・・この味妻と一緒に食べたかったな。

  • バイオリズム 2021年03月11日

     人の感情にも浮き沈みがある。昨日の定休日、遅くまで寝ていた。目が覚めて、食パンをかじりながらテレビニュースを見ていた。どんよりとした天気のせいだろうか。空に、灰色の雲が立ち込めているからだろうか。やけに寂しい。無性に寂しく感じてしまう。

     

    コバイモ

     

     耐えきれなくて、カメラを持って飛び出した。車に乗って、エンジンをかけてから目的地が定まった。川本町に行こう。春の妖精、出雲コバイモを撮りに行こう。私は、車の運転をしている時が一番心安らぐ。車内には、山本潤子の歌声がステレオから流れている。エンドレスに。

     

    群衆

     

     今は列車も通わぬ、哀愁を帯びた川本駅の改札口からホームを眺めて佇んだ。閑散とした駅前通りを歩いてみた。3階建てのビルには埃にまみれたスナック看板が掛けられている。再び車をを走らせる。県境を越えた。広島県の千代田インターで降りた。一般道をしばらく走って土師ダムを左手に眺めた。昔、自転車競技でオープン参加した会場がある場所だ。尾道松江線に入った。カーナビが、ドライブレコーダーが警告する。二時間が過ぎましたよって。

  • 人って、いいな 2021年03月07日

     忙しい日は忙しい。とことん忙しくなる。正月と、盆と、祭りが同時に来たように忙しくなる。だが、昼ご飯を食べる時間があったからまだましかな。そして午後4時になったらそれも終わった。残務は、山ほどあるのだが明日に回そう。今日はもうへとへと。

     

     仕事じまいのコーヒーを飲んでいたら、え、またお客さん?って思ったのだが知り合いだった。私よりほんのちょっと年上のご夫婦である。彼らの息子さんは10年ほど前、事故で亡くなった。息子さんと私は仲良くしていた。息子さんは私を慕っていてくれた。だから彼の両親と親しくなれたのだが。・・・今日は晩御飯のおかずをこしらえて持ってきてくれた。息子さんが好きだったハンバーグらしい。有難い。

     

     そう言えば、正月の断捨離の時、押し入れに仕舞っておいた息子さんの写真、彼を懐かしく思い出して見ていた。その時高校生だった彼。30近く、歳の違った私と一緒に写真に納まっていた。

  • 勝山は暖簾が良く似合う 2021年03月04日

     3月3日、久し振りに、天気が良い水曜日の定休日がやって来た。予定通り、岡山県真庭市の勝山町行きを実行した。朝一番の来客の対応を終え、10時、事務所前を出発した。5年ほど前に知り合った女性の友達を助手席に。(この日記、家族も読んでいるから言っとくが、あくまでも友達だから心配なく)

     

    雛

     

     いつも通り行きの途中、金持(かもち)神社に寄った。私は信仰心を持たないけれど、宝くじが当たりますようと手を合わす。そして四十曲峠を越して勝山町に到着した。いつもの駐車場に車を止めた。

     

     美しい女性店主がいる行きつけのカフェに入る。ここも古民家を改造したものだ。美味しいコーヒーのケーキセットを頂いた。今日は雛祭り、散策道路は歩行者天国で歩きやすい。幸せそうな人々達と暖簾街道を歩く。でも今日は友達が居るから一人じゃない。

     

    暖簾

     

     民家や商店の軒先に展示された雛人形が可愛い。それと暖簾のコンビネーションが城下町の藩政時代の懐かしさを醸している。この町も、妻との思い出が懐かしい。妻の姿が瞼にくっきりと浮かぶ。かあちゃん、楽しいな。

     

     草木染そして織物工房の店に入った。暖簾ってなぜですかって聞いてみた。大学で、染色と織物を学んだそうだ。この店に暖簾にして玄関に取り付けたそうだ。それを見て、近所の人の依頼を受けたとか。そして暖簾の町、勝山町の誕生だ。27年前のことである。

     

     暖簾に付いて尋ねた最初の人が、暖簾の町の暖簾の創始者だなんて。すごい確率で偶然訪ねた人が、その女性が答えてくれた。今日は私の誕生日、いい年になりそうな気がする。

  • そんな気がして 2021年03月01日

     この頃よく眠る。途中で何回も目が覚めて、その度にトイレに行って、また寝付けなくて悶々とした気持ちの中で朝を迎える。そんな状態の夜が続いていたのに、この頃よく眠る。一回も目覚めることなく、それどころか目覚まし時計が必要となってきた。

     

     私が眠れなくなったのは、妻が亡くなってからだ。「岬めぐり」の歌詞の中で、「僕はどうして生きていこう」とバスに乗った彼は青い海を眺めながら歌った。そんな気持ちが私も2年半も続いた。食欲もなく、生きる気力さえ薄れて、眠る体力も心の力もなくしていたのだろうと思う。

     

     配偶者を失った人はみんなそうだと思う。だから連れ合いの後を追うように亡くなっていった話をよく聞く。でも私は生きる気力を取り戻そうとしている。これは私の気持ちが強いからではない。おとうさん、生きていってと、妻が天国から手をふっている。そんな気がして。

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