店主日記
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観音院
2024年11月07日
鳥取駅が高架化されて間がない頃だった。私と妻は知り合った。妻は兵庫県の但馬地方に住んでいた。当時こんな言葉があったかどうか、いわゆる遠距離恋愛だった。もちろん携帯電話もない時代だったからしばらくは文通が続いた。そしてたまには会おうと言うことになり、ふたりの住んでいる中間の鳥取駅で待ち合わせすることにした。
鳥取駅の改札口は、ホームから階段を降り切った所にあった。そこで人々の中に混じって階段を下って来る彼女を見つけるのが楽しみだった。改札を抜けて来る彼女に言う最初の言葉はいつも「やあ、久し振り」。そう言っていた。数か月に一度しか会うことがなかったから自然とそんな言葉になったんだろう。
ある日、駅に早く着いたので、観光案内所を覗いた。そこのパンフレットに、「観音院」を見つけた。庭園に興味があるわけではない。観賞するほどの能力があるわけではない。だけど、なぜか興味がわいた。そして改札を抜けてくる彼女を誘ってみた。どう、行ってみない。
観音院の縁側で頂いた抹茶の茶碗の底には、干支の文字が刻んであった。私は何気なく茶碗をお盆に返した。その時、彼女が笑顔なのに気が付いた。そして、私の茶碗、あなたの干支よ。あなたの茶碗は、私の干支よ。そう言った。そんな話したこともないのにどうして私の干支を。不思議な気がした。だがこうも思った。こんな偶然、ふたりは結ばれる運命なのかもしれない。彼女もそう思ったのかもしれない。(2020年10月2日の日記参照)
その2ヶ月後再会した。賀露港に行くことにした。冬になっていた。晴れているが風が強かった。高さの低い防波堤に打ち付ける波は、空高く舞い上がってそのひと粒ひと粒が陽光を弾いてきらきらと光って美しかった。それを正面に眺めながらハンドルに持たれて言った。ねえ、一緒に暮らさない。そのひと言が私の2ヶ月間の決意だった。彼女は、正面を見据えながら、そして黙ってこくりとう頷いた。
今月になった3日の日、無性に観音院に行きたくなった。妻との思い出に浸りたかった。抹茶を頂きたかった。そんな気持ちで昨日行ってきた。観音院の借景の山は色づきがかっていた。ツワブキの花が美しかった。抹茶茶碗に、妻の干支の子の文字を見たら嬉しいな、と淡い期待を持った。そしたらどうだ、子の字が見えた。あの時と一緒だ。嬉しかった。松江を出発するのと、帰りの気持ちは全く別のものになっていた。やっぱり妻はまだ生きている。私の心の中に生きている。そして永遠に生き続けるだろう。
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あ、妻の字だ
2024年11月05日
我が社には大学ノートに妻が作った出納帳がある。今朝、車の給油したのと、店舗の管理料の収入があったので記録した。その時、何気なく裏表紙の裏を見てみた。あ、妻の字だ。そう思った。だけど、2019年=R1、もう妻はいやしない。私たちって、字まで似ていたのだろうか。
この頃、昼間が短くなって時々暖房が欲しくなったきた。暗くなった部屋に帰った時、なんとなく寂しさを感じてしまう。俺って、ひとりなんだな、ひとりぼっちなんだなと、そう思ってしまう。電話すれば、ラインすれば子供たちに会えるのに、だけどひとりぼっちだと思ってしまう。年々、寂しいという思いは増していく。妻が書いたノートの表紙の、出納帳の字を見ただけで寂しくなってしまう。だから明日、鳥取の観音院に行こう。妻とふたりして。
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エノコログサ
2024年11月04日
二日間、止み間もなく雨が降り続いた。昨日の朝、遅く目覚めたら晴れていた。朝のリビングのテーブルに陽射しが届いて暖かかった。でも午前中は、雲が多かった。その雲も、夕方近くにはなくなって、爽快な青空が広がった。耕作を放棄された畑一面にエノコログサが広がって、逆光を浴びてキラキラと輝いていた。エノコログサは、犬っころ草が転じてエノコログサとなったらしい。猫じゃらしと言った方がピンと来る人が多いのかもしれない。文化の日の昨日そんなしょうもない光景に感動した私だった。振り替え休日の今日も、青空が広がっている。そんな爽やかな朝、ジーパンで出勤してきた。土日祝日は普段着にしようかな。
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時代
2024年11月03日
久し振りに晴れた朝を迎えた。リビングのテーブルまで陽射しが届いて暖かだった。妻が眠る公園墓地も、柔らかな日差しに埋まっていた。いつものように墓石に頬ずりして、そしていつものように妻に話しかけた。いつも、取り留めもない近況を話す。ドジャースの優勝パレードの様子がテレビで放映されたよ。大谷がいて、そして奥さんがいたよ。
俺たちも、あんな若い時代があったよね、と言った瞬間、突然心が躍った。なぎさ、今度の定休日に鳥取に行こ。思い出の鳥取の、観音院に行こ。ふたりで縁側に座って、抹茶を頂こ。あの時のように、縁側にふたり並んで抹茶を頂こ。な、そうしよ。今度の水曜日の定休日だよ。・・・昨日、ノートに歌詞をメモした中島みゆきが歌う「時代」が心の中を流れていった。
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けなげだね
2024年10月31日
この頃、野菜の酢漬けにはまっている。夕方帰ったらまずシャワー。それが終わったら缶ビールを、というより発泡酒をひと缶。そして酢漬けをつまむ。そうしながら夕食を作る。先週は一週間ほど鍋料理を。野菜を足しては温める。朝もサラダを食べるから野菜は豊富。なんて健康的な食生活なんだろう、酒さえ過ぎなければ。
昨日の定休日、午前中妻の墓石まわりの草刈りをした。途中腰に違和感を感じたので虎刈りに終わった。でも今朝の墓参は気持ち良かった。まだ少し腰が気になるから、気温も下がってもう草も伸びないだろうから正月までにはもっと奇麗にしてあげる。必ず奇麗にしてあげる。
それにしてもどうしてだろう。朝が眠くて起きれない。夜も早めに眠るのだけれど、だけど朝が眠くて起きれない。殊更に暑かった今年の夏。そこへ帯状疱疹の辛さが加わって、疲れ果ててしまったのだろうか。その疲れを今懸命に、癒そうとしているのだろうか。もしそうだとしたら、体ってけなげだね。可愛いね。