店主日記
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息子よ
2023年10月25日
定休日なので出雲市の息子に会いに行った。手を差し出したら握ってきた。いつまでもいつまでも離そうとしない。いつもこんなことないのに。連れて帰ってくれって、目が訴えていた。新しい入所先に申し込んでから、もう5年半にもなるのに。空きがなくて、いつまでも退院できないでいる。手を引き離したら、うつむいてしまった。
辛かった。そんな息子を見るのが辛かった。苦しかった。無力な私が情けなかった。別れてひとり、エレベーターに乗った。誰もいないエレベーターの中で、手すりを握った瞬間泣き崩れてしまった。なぎさ、俺どうすればいい。
立久恵狭を通って帰ろうと思った。峠を越して、息子が入所していた施設前に出た。妻が、息子と一緒に何十回もこの車で走ったこの道を帰ることにした。CDでグレープの歌声を繰り返し繰り返し聴いた。店主日記、誰か私の気持ちを分かってくれる人がいるのに違いない。そう思いながら車を走らせた。立久恵狭、川なのに水の流れはたゆとうていた。
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見ていてな
2023年10月24日
昨日は天気が良かった。水道局で調べ物をして法務局へ向かう途中の信号待ちだ。向かいの空の、雲の下に雲ができていた。二段重ねの雲、空にはそんな光景はいっぱいあるのだろうが、昨日はその神秘に妙にひかれた。この頃、やけに雲の形が気になってしまう。
今日も早く目覚めた。仕事への緊張からだろうか。日課の墓参も早い時間になった。なぎさ。今日は大仕事。どんな仕事するか見ていてな。俺たち夫婦の幸せのために頑張るから、しっかり俺の仕事見ていてな。・・・やがて、眩しい太陽の陽が射してきた。
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秋桜
2023年10月23日
早く目覚めたので早くに出勤してきた。天気の良さにひかれて、久し振りに事務所に隣接する交差点の歩道を掃き清めた。妻とふたりで仕事をしている時、この交差点から少し南のバス停までの歩道をきれいにするのが私の日課だった。だが、妻を失って、それをする心のゆとりがなくなっていった。
ドライブ中、道端に咲くコスモスの花をよく見かけるこの頃だ。その度に、山口百恵が歌った秋桜の歌が心を巡っていく。「明日嫁ぐ私に苦労はしても笑い話に時が変えるよ心配いらないと笑った」そんなセリフを、いち度だけでも妻に言わせてやりたかった。月命日を数える度に、妻を想う気持ちが深まっていく。
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カメムシ
2023年10月22日
昨日の嵐で、今朝の事務所の玄関先に木の葉っぱが散乱していた。その掃き掃除をしている時、一昨日の夕方からやって来たカメムシが今も留まっているのが目にとまった。葉っぱを掃く箒がカメムシのすぐ近くで動くのだが、動じる気配はない。私の心を見透かしているようにも見えた。
私は、非現実的なことを信じる気持ちは全くない。あの世とか、そう言った世界があるなどとも思わない。死んでしまったら、人間だって虫だって植物だってみんな土に帰るだけだと、そう思っている。もし、私が死んだなら、火葬して粉にして海にでも流してほしいと思っている。
だが、妻のことになったら全く違う考え方を持っている。妻はあの世に居て、雲の上から私のことをを見守っていてくれる。そう思っている。そう思いたいのかもしれない。このカメムシも、ひょっとしたら妻の魂を宿しているのかもしれない。虫がやって来ると、いつもそう思う。
このカメムシは、飛んでいるだけで匂う、あのカメムシとは種類が違うようだ。背中の模様で、一昨日からここにいるカメムシだと分かった。なぎさ、そうだろ。
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八雲立つ
2023年10月20日
「八雲立つ 出雲八重垣妻ごみに 八重垣つくる その八重垣を」 これがここ出雲地方で歌われた日本最初の短歌だそうである。今日、午後になって外出した。我が社のある上乃木から浜乃木を通って嫁島に出ると宍道湖に突き当たる。道さえ混まねば車で5分余りの道程だ。嫁島で用事が終わったので宍道湖を回って帰ることにした。宍道湖の空が八雲で埋まっていた。西を見たら出雲空港の建物だろうか、それとも出雲市街地の物だろうか定かではないが、平素は水平線に隠れて見えないものが見えていた。蜃気楼による風景だろう。
そうそう、「八雲立つ」は出雲にかかる枕詞だとか。蜃気楼の写真は、スマホで写したものをパソコンでトリミングして拡大したからぼけた。やはりスマホはスマホだと思った。一眼レフの解像力にはかなわない。