展望台

2023年12月11日

 本通り商店街を歩いてみた。小物を売っている店に何店舗かに入ってみた。買うのでもない。なんとなく品物を見て、そしてぶらっと出て行く。店の人にとってはつまらないお客かもしれない。だが、さくらにはなるかもしれないと罪意識を和らげてみた。

 

 そろそろ帰ろ。ロープウエイの片道切符を2枚買った。定員30人と書いてある乗り物には20人近くが乗っていた。30人は無理だろうと思った。発車時間直前だったからロープウエイはすぐに動き出した。なぎさ、この前と同じ風景だね。何も変わっちゃいないね。尾道にはたくさんの寺があって、その、それぞれの屋根の瓦だけが妙に輝いて見えた。

 

展望台

 

 3分ほどで千光寺山の頂付近に到着した。妻が展望台に行ってみようよと言った。満員のエレベーターに乗り込んで展望台に立った。この展望台、以前来た時にはなかったのにね、と妻が言う。そうだね、初めてだね、それにしても眺めがいいね。向島の向こうの海や、そこに浮かぶ島々がよく見えた。すばらしいわ。来て良かったね、と妻。黄砂だろうか、風景は霞んでいたが絶景には間違いなかった。なぎさ、楽しかったね。また一緒に来ようね。俺は、君といるのが一番楽しいんだから。

 

瀬戸内

解説

 この3日間の店主日記、読まれた人は奇異に感じられたのかもしれない。ひょっとしたら作者は・・・と思われた人もいるかもしれない。妻が亡くなって、もう5年と7カ月余りが過ぎた。もう、悲しみとさよならしてもいい頃だろうに。だが、妻への思いは一層深まっていく。

 

 朝起きたら、枕元の妻の写真にお早うと言って頬ずりする。出勤前に、じゃあ行ってくるねと手を振って玄関を後にする。帰るとすぐ、玄関から帰ったよって声をかける。何をするにも妻と話すことにしている。忘れてしまえばいいものを、あえてこうすることで心が和む。これが私のこの頃の日常だ。仕事でも、家にいる時も、ドライブを楽しむ時でもいつもそう。だから、これが日常の店主日記なのである。

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