朝一番のコーヒーを淹れる時

2025年06月13日

コーヒー 入院の時、長女がわざわざ東京から見舞いに来てくれた。飛行機代やレンタカー代がもったいないから来なくてもいいよって、そう言っておいたのに病室のドアをたたく音がした。長女が入ってきた。現況など話し合ってしばらくの後、エレベーターまで見送った。エレベーターのドアが閉じる冷たい音がして、そして涙がこぼれた。

 

 あの時、一杯分がスティック状の袋に入ったインスタントコーヒーを持ってきてくれた。今朝も、それで朝一番のコーヒーを淹れた。事務所のバックヤードに流し台があって、そこに電気ポットを置いている。湯を注ぐ時いつもささやく。なぎさ、君はここで倒れたんだよ。

 

 昼食の食器を洗いながら、明日の息子の入院を考えたんだろう。可哀そうだなって思ったんだろう。どんな入院生活になるんだろうと心配だったんだろう。そしていたたまれなくなった刹那、病魔が突然襲ってきた。ああ、駄目だどうしようと、お父さんってか細い声で呼んだんだろう。

 

 なぎさ、今度の盆にね、長女と孫と、そして同じ東京に住む末娘が一緒に帰って来るよ。楽しみだね。楽しい盆をみんなで一緒に過ごそうね。そう報告した。ここで、妻が倒れたこの場所でいつも思う。今日もまたつぶやいた。もう一度会いたいな。もう一度一緒に暮らしたいな。

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