出雲今市

2024年10月11日

 私の故郷では、出雲市に行くことを今市に行ってくる、そう言っていた。出雲市には今市町があって、そこが商業や文化の中心だったからだろう。そのうちに、出雲今市になり、出雲市と呼ぶようになっていった。そんな小さな歴史にも、それぞれの時代の暮らしぶりが想像できるからおもしろい。

 

 早い昼食を済ませて、資料を持って出雲市に向かった。お客様は、私と同い年でひとり暮らしの女性だ。ひととおり仕事の話が片付くと雑談になっていった。そして孫の話。可愛くてしょうがないらしい。一時間ほど話し込んだ後、入院の息子を見舞った。すやすやと眠っていて安心した。

 

 帰り、昔テレビ放映された日本まんが昔話に描かれそうな雲がいくつも浮かんでいた。なぜかその雲が、生後半年の孫を連れて北京に行く娘を出雲空港で見送ったのを思い出させた。ジェットエンジンをうならせて飛行機は羽田空港を目指して飛び立った。やがて、きらりと光って視界から消えた。知らぬうちに、両瞼は今にもこぼれそうなほどの涙を溜めていた。出雲、出る雲と書くんだなと、あらためてそう思った。

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