目覚めたよ

2023年02月08日

 気が付けば、車は左手に鳥取の日本海を見て走っていた。冬の日本海にしては穏やかだ。鳴石の浜に寄ってみたが、波が小さく、コツコツと音がする程度。そしてまた走った。妻との、まるで小説のような出会い。小説のような恋愛。小説のような暮らし。そしてまた小説のような別れ。それらを順を追って回顧してみた。

 

なぎさ

 

 それからも当てもなく鳥取の山間の道をさすらっていた。将来のことを考えながらさすらい続けていた。これからどう考え、生きていくのか結論が出るまで家には帰らない。例え明日になっても結論が出なければ帰らないつもりでさすらっていた。このままでは生きていけない気がしていた。悶々とした気持ちでいた。

 

 だが、突然心が動いた。あ、そうか、そうなんだ。と、そう思った瞬間、3人の子供たちの顔が浮かんできた。次から次と代わりばんこに子供たちの顔が浮かんできた。そして、長女が言う。いつまでも悲しみの淵をさ迷っているのはお父さんらしくないよ。

 

 そうだよお父さん。お父さんは障害のお兄ちゃんを懸命に育てたじゃない。学校や、行政や、社会に対して障害を持つ意義を懸命に訴えていたじゃない。お父さんが病気で会社辞めた時、懸命に勉強したじゃない。みごとに国家資格とったじゃない。そして自営業立ち上げたじゃない。私たちを大学に行かせたじゃない。そうだよ、それがお父さんだよ。

 

 そう言う長女の声が聞こえた時、涙が頬をつたってこぼれた。これは悲しい涙じゃない。嬉しい涙なんだ。俺はいい子供たちに恵まれた。そう思った時、車は長いトンネルを抜けていた。いつの間にか目に眩しい青空に変わっていた。気が付けば心も爽やかだった。

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