店主日記

  • 暗夜行路 2019年12月08日

     いかにも山陰の冬らしい天候になってきた。一日で数個の天気を繰り返す。雨のち晴れ、のち雨、曇りのちまた雨。そして霰が混じってくる。そんな天気も手伝って、師走のあわただしさで来客も少なくなってきた。それが有難いのやらなんやらで本を読む時間が増えてきた。

    志賀直哉 宅

     

     何度目だろう、志賀直哉の「暗夜行路」を読むのは。この前の6月の終わりの頃に尾道市に行った時、山肌に建てられた家々を縫うように幾本もの坂になっている小路をを歩いていると、時任謙作の名前が何の抵抗もなく浮かんできた。その時に、もう一度読んでみたい。しかもじっくりと読んでみたいという衝動にかられた。

     

     それから夏が過ぎ、秋も終わって寒い冬がやって来た。私の心も大分に落ち着いてきて文庫本の本棚の整理したとき、暗夜行路が見つかった。先日から、ゆっくりと読んでいる。謙作の部屋から見える、尾道の町や瀬戸内海に浮かぶ島々の風景の描写を何度も何度も繰り返し読んでいる。

  • けやき文庫 2019年12月01日

     けやき文庫

     速く読むわけじゃないのに、多くの時間を読書にかけるわけじゃないのにいつの間にか溜まってしまう。文庫本収納部分がいっぱいになってしまう。今回は古本屋に持って行くのをやめた。

     

     ジュンテンドーで一枚の板を買ってきた。事務所にあったブックスタンドを利用して2段に収めた。これならわずかなスペースに置ける。接客カウンターの片隅に置くことにした。

     

     勧めはしない。気が付いた人がなんでって不思議に思う。その人の問いに答える。もし、お読みになりたいものがあったらお持ち帰りください。返却はしなくていいですよ。でも、推理小説ばかりですよ。

  • みんなちがって、みんないい 2019年11月14日

     寂しさに耐え切れない時がある。そんな時には車で走ることにしている。大好きな車で走っていると心安らぐ。スピーカーから流れてくる昭和のフォークソングを聞きながら、時には口ずさみながら涙して。でも、そんな瞬間がいちばん心安らぐ。

    金子みすゞ

     

     山口県の長門市に、「金子みすゞ記念館」がある。金子みすゞは大正末期から昭和初期にかけて活躍した童謡詩人である。中に、「私と小鳥と鈴と」がある。みんなちがって、みんないい。彼女はそう詩った。

     

     私たちの長男は障害をもって生まれてきた。どう育てたらいいのか途方に暮れた。そんな私たちの気持ちを支えてくれたのは金子みすゞなのである。みんなちがって、みんないい、・・・そうなんだよってみすゞは私たちに語りかけてくれた。だから一度行きたいねって話してたけど、先日一人で行ってきた。 

  • ツワブキ 2019年11月10日

    ツワブキ

     

     ああ、そうだと思いだして島根県立美術館に行った。塩谷定好氏(1899~1988)の写真展が間もなく終わる。「ヴェス単」のソフトフォーカスが味わい深い。塩谷氏の人間性が写真に写っている。そんな写真展を観た。「村の情景」・「海の情景」・「花の情景」に彼ならではの優しさが写っている。

     

     その後、事務所に帰ってみると木陰にひっそりと咲くツワブキの花に目が向いた。この花言葉が「困難に負けない」そうである。塩谷定好氏とツワブキの花に、少しだけれど生きる勇気をもらった気がする。

  • 名もない花Ⅱ 2019年11月02日

    花Ⅱ

     

     先日見かけた花が愛おしくなって・・・。

     

     名もない花は咲く場所を自ら選べない。風任せに、天候任せに落ちた場所で咲いていく。この花も、選りによってどうしてこんな場所に咲くのだろう。養分もなく、陽も当たらない場所。しかも風の通り道ときている。

     

     萩生田大臣が言った。「身の丈に合わせて・・・頑張ってもらえれば」と。人間だって、生まれる場所など選べやしない。東京で生まれ育った人間と、島根の山間地で育った人間との条件は同じではない。

     

     風の通り道だから、陽も当たらない場所だから、カメラのピントを合わすのが大変だった。何度も何度も撮り返した。でもこの花は、撮ってくれる人間がいるからいい。気にかける人間がいるからいい。でもそれは、懸命に生きている姿が見えるから。

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