雨の池泉

2023年07月06日

池泉 

 縁側に胡坐をかいて池泉を眺めた。まんべんなく降るのではなく、比較的大きな雨粒が互いに間隔を持ってぽつりぽつりと落ちていた。その一粒ひとつぶが池泉の水面に落ちては円を描いていった。その円はさっと大きくなって直後に消えた。その繰り返しが水面いっぱいに水玉模様になって広がっていた。大きな鯉が、ゴボッと音を立てて水面を揺らして水蓮の葉をざわつかせた。池泉の上に、妙に赤いアカトンボがつがいで飛んでいた。視界から消えてはまた見えてきてやがてどこかへ飛んでいった。雨の日にしては明るい空の淡い光が山畔の緑を濃くしていて美しかった。

 

 家を出発するときには降っていなかったのに直後に降り出した。その雨は風景を暗くしてやがて土砂降りになった。雨水はフロントガラスに覆いかぶさった。瞬間ひるんだ。だが、先日からの妻との約束の鳥取市の観音院行きだった。行かねばならないと思った。

 

漁港

 

 幸いなことにしばらくの後、小降りになった。空も明るくなってきた。妻の力かもしれないなと思った。家族みんなで走った一般国道を走ることにした。時々左手に日本海が見えてきた。休憩でみんなで一緒に眺めた魚見台からの海の眺めを楽しんだ。港には、漁業者たちの漁船が数艘停泊していた。

 

 車の中でも妻との会話を楽しんだ。目的地の観音院でも妻との会話が嬉しかった。そして帰路についた。山陰道を走ることにした。ふと思った。今日、楽しかったのはなぜだろう。そう言えば、観音院でも懐かしさの涙は出なかった。どころかかえってふたりの会話を楽しんだ。妻の存在に対する私の心に変化が生まれ始めたのかもしれないなと、そう思った。

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