赤ちょうちん

2021年05月13日

 18曲入りのCDの中の、かぐや姫が歌う「赤ちょうちん」が巡ってきてその曲が終わった時だ。もう一回聴きたいなって私が言う。あなたこの歌好きだねって妻が言う。この歌聞くとね、いつもお金に苦労していた、若かったあの頃の記憶が懐かしいんだ、と答える私。

 

 遅くに目覚めた昨日の定休日だ。目覚めた瞬間、かあちゃんリビングでお茶飲んでるだろうかって思った。それが寂しさの始まりだ。もう、かあちゃんいないんだよって自分に言い聞かせた。人って、体の傷の痛みには耐えても心の切なさには耐えきれないようだ。

 

 たまらなくなって、車に乗った。どこへ行こうか。まずお墓行って、そこで考えよう。なかなか行き先を思いつかず、先日の黄砂の雨で汚れた車を洗うことにした。洗車機から出て水滴を拭き終わった時、そうだ、海を見に行こうとやっと目的地を得た。

 

 車は私の心をしり目に快調に走る。しばらく島根半島の海岸線を走る。「赤ちょうちん」が巡ってきた。妻の声が聞こえた。もう一回繰り返す。何度も何度も繰り返す。そして泣いた。思う存分泣いた。・・・時々こんな気持ちになる日が巡って来る。私は、どれだけ深く妻を愛していたのだろう。この私には、いったいどれほどの数の涙があるのだろう。

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