筍
ずいぶん昔読んだ渡辺淳一氏の小説にこんな一節があった。「寝るのも体力だ」と。先日の入院では眠るのに苦しんだ。夜の消灯の9時半に眠りに着こうとするのだが眠れなかった。やっとうとうとしたと思って、そして気が付けば夜中の12時。後は悶々とした気持ちで朝を待つ。朝日が出て、カーテンを開けたら本が読める。ほっとしたものだった。
1日の日に退院して、その日我が家で良く寝た。もう一日寝たらほぼ回復するだろうと、友達に連絡をした。ドライブに付き合ってくれないかと。土曜日の午後なら空いてるよと返事があった。人と話したかった。8日間の入院生活は私に会話の飢えをもたらした。孤独って、こんなに辛いものかと思い知った。そう感じるのも年齢のせいかもしれない。体力のせいなのかもしれない。
昨日の土曜日、車に乗って事務所を出た。目的地は決まってはいないが、ハンドルは奥出雲町に向かっていた。何でもいい、取り留めのない話を繰り返す。それが私の今日の目的だ。八雲町から広瀬町に出て比田を通って奥出雲町に入った。故郷に着くと何故か心がほっとする。暖かさを感じさせてくれるのが故郷なのかもしれない。
道の駅に立ち寄るのが私のドライブスタイルだ。「酒蔵 奥出雲交流館」に行った。さすがに連休の初日だ。駐車場がいっぱいでそこはスルーすることにした。遠回りして「おろちの里」に行った。売店に入ったら米糠がセットされた筍が売れていた。もうとおに旬は過ぎている。が、作ってみたくなった。病も癒えたことだし、久し振りにこの筍を調理しよういう気持ちになった。
当たり前だが、退院して少しの間は 禁酒だ。それをあえて犯す禁じられた遊びは心が複雑だ。コップ片手に時々筍の鍋を覗く。リビングからラインの着信音が聞こえた。幼なじみのように、景ちゃんと呼ぶよ。そうだね、じゃあこれからはコトちゃんと呼ぶよ。幼なじみ。竹馬の友。そう言えば今筍煮てるんだ。