生涯現役でいたい
喉の渇きで目が覚めた。台所に立って、コップで水を3杯続けて飲んだ。冷たい水が、味もしないのに美味しいと思った。そしてよく寝たと思った。時計を見ればまだ6時半。鏡に映った髪の毛はぐちゃぐちゃに崩れていた。9時にはもう寝たんだから、9時間半も眠り続けたことになる。
パンを牛乳で流し込んで、8時前には出勤して来た。早く出勤して来たのはずいぶん久し振りだなと思った。妻が亡くなってからは眠れなくて、朝早く目覚めて、暗いうちから出勤していた。茶臼山に昇る朝日を事務所のガラス戸越しに見つめていた。妻はどこで私を見ているのだろう、そう思いながら。・・・そんな日々を思い出しながら、落ち着いたものだと思った。やっと、妻の死を受け入れたのかもしれない。この頃はよく眠る。
記憶は昨日の昼間に遡っていた。この頃行ったこともない焼き肉店だ。久し振りで食べる焼き肉は美味しかった。乾いたひとり暮らしの心に潤いを与えてくれた。旨いものにはビールが良く似合った。もっと話したかったが、相手は忙しいらしい。午後一の予定があるらしい。車で自宅付近まで送ってもらった。
ある程度、酒が入るのを予想していたので掃除などは朝のうちに片付けておいた。品切れていた酒も買って来ておいた。水曜日の、私が行く酒のディスカウントショップは特売日だ。開店直後に行ったら年寄りの姿が目立った。これが唯一の楽しみの人もいるかもしれないなどと思えた。だけど私は一生現役でいたい。死ぬまで働き続けたい。働くのを生き甲斐としたい。そう強く思った。
よし、今日はとことん飲もう。飲みながら考えてみよう。そう思った。誕生日と、快気祝いだと言ってごちそうしてくれた相手の分身が言った。何歳ですか、と。75歳、後期高齢者だよと答えた。若いですねと褒めてくれた。生涯現役と考える私の考えていることと、相手方の人生が一致するのだろうか。可能性を見出してみたい。そんな悩みの尽きない私なのである。だけど悩める幸せがある私なのである。