武蔵坊弁慶

2022年11月19日

黄葉 先日のこの店主日記に弁慶ウォークに参加したことを書いた。弁慶とはもちろん武蔵坊弁慶のことで、日本各地に弁慶伝承はあるらしい。松江市の長海町にも生誕の地とされる伝説がある。その弁慶が、鳥取県の大山寺から重い釣り鐘を一夜にして出雲市の鰐淵寺に運んだ。その伝承に基づいて、その同じ距離を歩く行事が以前、何年か続けて開催された。それを弁慶ウォークと言う。

 

 もし、あれから歩き続けていたらと考えながら歩いてみた。この坂道、私の足ではやはり無理だっただろう。だけど、悔しいな、なんて今になっても悔しがる30年前の記憶をたどっている私に気が付いた。

 

 あの頃携帯持っていたかも忘れた。電話ボックスがあったような。玉湯町林の宍道湖ふれあいパークのパーキングエリアで電話した。リタイヤしたから迎えに来てくれと。朝の7時だった。ホライゾン(イスズのビッグホンをホンダが販売していた)を運転して妻がやって来た。まだ幼児の長男を隣に載せて。「大丈夫?」って言ってくれた。携帯のことは忘れたけど、あの時の言葉は昨日のことのようによく覚えている。

 

 長い石の階段を登り終えた時、その時の記憶が蘇ってきた。小降りだが、鰐淵寺は雨だった。火照ったからだには雨さえも気持ちいい。息を整えながら、ぼんやりと風景を眺めていた。おや、晴れてきた。雨も止んでいる。一本の木の黄葉が逆光に輝いている。神々しい。その黄葉の中に妻の顔が浮かんで見えた。なぎさ、有難うな。こんな俺と一緒に暮らしてくれて。支えてくれて。

ページトップ