明日何時に出発したらいい

2024年05月20日

 朝の10時頃だっただろうか、「明日何時に出発したらいい」。その答えを当たり前のように、当たり前のことを答えてしまった。そしてその日の正午過ぎ、妻は事務所でお父さんと言って、そして倒れて、意識も回復しないままにあの世にひとり旅立って行ってしまった。

 

 次の日の月曜日、息子は入院することになっていた。病気でもないのに、その必要もないのに。だから妻は、その入院を嫌がっていた。そんなに気にしているんだったら、そんなに嫌だったら。・・・妻の気持ちを分かってやれなかった。そう思うと今でも悔やまれてならない。・・・俺も一緒に行くよと、なぜ私はそう言わなかったのだろう。そしたら、妻は死ななくてもよかったのかもしれないのに。

 

 今日の午前中、約束通り息子が籍を置く施設の人が3人でやって来た。予想通り、息子との契約を解約してほしいと言って。私はきっぱりと断った。あれから6年、あなた方は何の努力をして来たんですか。なぜ息子は、あんな窮屈な生活を6年間も続けなくてはならなかったのですか。せめて、新しい息子の入所先を探す努力をしてください。それが、息子を病院に送り込んだあなた方の責任でしょう。・・・妻の仇を討ってやりたい。そんな気持ちになっていた。

 

 3人が帰った後、怒りで心が震えた。妻を亡くした悲しさに、息子を不自由な生活にした心の苦しみに、この6年間、俺が一体どんな気持ちで生きて来たと思ってる。・・・景山さんって、怒ったことあるのって時々人が言う。そりゃああるさ、と心の中でつぶやく。妻を愛した情熱があったように、俺にだって激しさはあるさ。

海

 

 たまらずに車を走らせた。こんなに心が乱れているようでは今日一日は終われない。そう思った。海が見たいと思った。どんなに心が乱れても、ハンドルを握ると落ち着くらしい。海を見て、点在する集落の民家の赤瓦を見てる時、ここにも生活があるんだな、人の営みがあるんだなと、だんだん心がほぐれてきた。・・・自分らしさを取り戻そう。明日から仕事、頑張ろう。

ページトップ